#19 ダイヤモンド・ダストの空に輝く一粒のきらめき “心に残る一曲特集③~青春編”
忘年会やらパソコンの調子が悪いやらで、更新が遅れてしまいました。“心に残る一曲特集”を三日連続でお送りする予定がだいぶくるってしまいました。
それでは、“心に残る一曲特集③~青春編”です。
1983年、美大生だった私はかけもちでバンドをしたり、短編の映画を撮ったり、小劇団の手伝いをしたりで忙しくしていた。それなりに充実はしていたのだが、将来自分がなにをしたいのかを考え悶々としていた時期でもあった。理想と現実のあいだを行ったり来たりしては、それを繰り返していたというわけだ。
この年に公開された『Flashdance(フラッシュダンス)』という映画がある。名作と呼ばれるような映画ではなかったが、楽しめる青春映画であった。私は当時好きだった〝エフ〟とこの映画を観に行った。たしか新宿にある映画館に行ったのだが、黄昏れはじめた街にはネオン・サインやイルミネーションがともりはじめていた。暗くなる直前の新宿の街を眺めながら彼女はいった。「わたし、この時間が好き。」彼女のいう通り、それはとても素敵な時間だった。そのぼやけたような幻想的な時間は一日のうちでおそらく数分しかないのだ。
『フラッシュダンス』は、溶接工をしながらダンスの勉強をし、大きな舞台に立つことを夢見る19歳の女性アレックスの物語であった。〝エフ〟はこの映画を自分の姿と重ね合せて観ていたようだった。彼女は同じ美大で油絵を描いていて、画家あるいはアーチストとして成功することを夢見ていたのだ。映画を観終わったあと、ロシア家庭料理の店で夕食をとりながら〝エフ〟はいった。「わたしね。もし有名になったら、いまの名前のままでいくの。結婚して苗字がかわってもだよ。・・・この名前が好きだから。」夢を語るときの彼女は屈託がなく、いつも楽しそうだった。
〝エフ〟と最後に会ったのはそれから約二年後の冬のことだった。彼女は大学院に進学して、絵を描き続けていた。一年ほどまったく会っていなかったのだが、彼女から個展の案内状が届いたのだ。案内状には、短く「元気?」とだけ記してあった。私たちの関係は中途半端なまま終わっていた。少なくとも私にとっては・・・。私は個展の最終日に、会場である銀座の画廊へと向かった。もちろん、〝エフ〟に会うためだ。
その画廊は地下にあった。階段を降りていきエントランスの扉を開けたが、彼女の姿を見つけることはできなかった。仕方なく〝エフ〟の作品を観ることにした。落ち着かない気持ちのまま短い時間が流れたとき、私の左ひじに誰かの手が軽く触れる感触があった。〝エフ〟の癖だった。「きてくれたの。元気だった?」久しぶりに聞く彼女の声は静かだった。「・・・まあな。エフも元気そうやん。」私も静かにこたえた。彼女は控え室にいたようだった。そのあまり広くはない控え室に通された私に、〝エフ〟がお茶をいれてくれた。そこには関係者が何人かいて打上げの準備をしていた。彼女とはゆっくりと話すことはできずに、ただ時間だけがよどんだまま過ぎた。しばらくして私が帰る旨をつげると、〝エフ〟が見送りにきてくれた。何かいうならこのタイミングしかなかった。
エントランスをでて私たちが地上に出ると、銀座の街には宵闇がせまっていた。〝エフ〟の好きな時間帯だった。クリスマスのイルミネーションに彩られた通りは、まもなく闇夜がやってきてより美しさを増すだろう。私たちは画廊のあるビルの前でたたずみ、どこを見るでもなく通りのほうに目をやっていた。前方を見たまま〝エフ〟がいった。「寒いね。」そして続けた。「きてくれて、ありがとう。」私も礼をいった。そのあとのことばが見つからずに、曖昧なまま私はいった。「それじゃ、またね。」彼女は「じゃあね。」とだけこたえ、小さく手を振った。これが彼女とかわした最後の会話となった。私は振り返ることなくその場を去った。あっけない幕切れだった。クリスマスを祝う並木通りにはクリスマス・ソングが流れ、飾りつけられたショー・ウィンドゥはどこもにぎやかだった。地下鉄の駅にひとり向かう私に、冬の風はいつもより冷たく吹きつけるのだった。
それから長い時間がたち、私は〝エフ〟のことを忘れかけていた。そんな数年前のある日、私はふと〝エフ〟のことを思い出していた。私と彼女との共通の友人がいないこともあって、最後に会った日からの彼女の情報はまったくなかった。どうしているのだろう。アーチストとして成功したのだろうか。私はためしにインターネットで検索をかけてみた。彼女の苗字は珍しいので、成功しているとしたらすぐにヒットするはずだ。もちろん姓が変わっていたらどうしようもないが・・・。最初は漢字で検索してみたが、まったくヒットしなかった。やはり夢は砕け散ったのだろうか。普通に考えれば、幸せな家庭を築いて平凡に暮らしている可能性も高い。まさかとは思いながら、英語で検索してみた。数十件ヒットした。間違いなく〝エフ〟だった。先程もいったように彼女の苗字はとても珍しいのだ。ヒットしたほとんどがイタリアのHPだった。イタリア語などわからない私だが、彼女の平面作品や立体作品の写真もいくつか掲載されていた。気取りがなく自分の感性をありのままに表現する彼女らしい作風は、むかしと変わっていなかった。
〝エフ〟は芸術の国イタリアで夢を実現させたのだ。彼女にとってどれほどの成功なのかはわからないが、少なくともいまでも絵を描き続けていることだけは確かだった。彼女がいっていたように、当時の名前のまま創作活動をしていた。天真爛漫な〝エフ〟のことだ、イタリア人と結婚してしあわせにやっているのだろう。そして私は、彼女がフェデリコ・フェリーニやルキノ・ヴィスコンティなどのイタリア映画が大好きだったことを思い出していた。
★ “Flashdance...What A Feeling(フラッシュダンス~ホワット・ア・フィーリング)” Irene Cara(アイリーン・キャラ)
→Flashdance...What A Feeling(Irene Cara)
★ “Reality(愛のファンタジー)” Richard Sanderson(リチャード・サンダーソン)
Sophie Marceau(ソフィー・マルソー)主演の仏映画『La Boum(ラ・ブーム)』の主題歌。なんとも甘酸っぱい曲だ。特にサビの部分は妙にせつないぞ。懐かしいだけかもしれんが・・・。当時この映画を観た方は、涙なしでは聴けないのではないでしょうか。ちょっといい過ぎかな。
→Reality(Richard Sanderson)の動画 ※『ラ・ブーム』より
→Reality(Richard Sanderson)の動画
★ “マイ・ピュア・レディ” 尾崎亜美
資生堂のTVCFに使われていた曲です。高校生のころだったと思いますが、なぜか心に残っているんですよね。尾崎亜美といえば“オリビアを聴きながら”という方も多いと思いますが、私は断然“マイ・ピュア・レディ”ですね。ご主人はサディスティック・ミカ・バンドの小原礼氏です。桃姫BANDでもいっしょにロックをやっていました。“Born To Be Wild”とか“Highway Star”とかね。
★ “Have You Never Been Mellow(そよ風の誘惑)” Olivia Newton-John(オリヴィア・ニュートン・ジョン)
さきほど“オリビアを聴きながら”の話をしましたが、オリビアはオリヴィア・ニュートン・ジョンのことで、“そよ風の誘惑”を私は思い出します。中学生のときに聴いていたラジオの深夜放送でよく流れていました。Queen(クィーン)やCarpenters(カーペンターズ)も人気があり、よく聴いていましたね。
→Have You Never Been Mellow(Olivia Newton-John)の動画
★ “中央線” The Boom
この曲はThe Boom の曲なんですけど、矢野顕子のカヴァーで知りました。20代前半に中央線沿いに住んでいたこともあって、はじめて聴いたとき以来この曲のファンです。矢野顕子ヴァージョンもいいですよ。まあ私は矢野顕子が好きなんで。天才だと思っているんで。ふむ。
★ “なごり雪” イルカ
♪東京で見る雪はこれが最後ねと・・・。うーん、私が東京での12年間の生活を最後にした日、雪が舞っていたんですね。いまでもカラオケに行くと歌ってしまいます(笑)。自分で歌って自分で感動してしまってます。どうしようもないしあわせものです。アホですね。でもこれいい曲です。
★ 本日の L-O-V-E ★
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Flashdance: Original Soundtrack From The Motion Picture アーティスト:Original Soundtrack |
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なごり雪 アーティスト:イルカ |
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